動物病院だより

ペットを動物病院に連れていって、言うことを聞いてくれず注射1本にも一苦労という経験をしたことはないでしょうか。人と直接接触することの少ない動物園動物ではなおさらです。無理やり押さえつけても正確な診察や治療はできませんし、何よりも動物に多大なストレスを与えることになります。また、網などでの捕獲自体が困難な動物もいます。そんな時、動物園では次のように麻酔が大活躍するのです。


1.注射による麻酔



場所を選ばず簡単なため最もよく行う方法です。小型のサルやアライグマ、ビーバーなどの小動物では、網をかけて直接注射器で麻酔薬を注射します。



ところがクマやヒョウなど網をかけたり接近することが困難な動物の場合にはそうはいきません。そんな時は飛び道具の麻酔銃を使います。これはエアーガンのようなものですが、銃口から飛び出すのは弾丸ではなく特殊な注射器です。これを動物のお尻などに命中させると自動的に薬液が注入されるのです。また、それらの中間型として槍式の注射装置もあり、その時々で使い分けます。注射麻酔では一般に30分から1時間ぐらい眠りにつくので、その間に私たちは素早く処置を行います


2.吸入麻酔



動物病院の中で精密検査や手術などを長時間にわたって行う場合は、吸入麻酔器を使ってガスを吸入させて麻酔します。この方法だと長時間にわたって麻酔のかかり具合を安全にコントロールできます。普通、まず注射で麻酔し、引き続いてこの吸入麻酔によりその麻酔状態を維持することになります。


3.経口薬を利用した麻酔



チンパンジーなど知能の高い動物にいきなり麻酔銃などを使うと人との信頼関係がそこなわれるばかりでなく、次からの処置が困難になります。こんな時は餌やジュースに鎮静薬を混ぜて与え、意識が薄れたところで麻酔銃を使用するのです。また、展示場を自由に飛びまわる鳥類でも、薬を仕込んだ餌を与えると捕獲することができます。


麻酔薬も発達し安全性は高まりましたが、麻酔薬の種類や量は動物によって様々ですし、また病気で体力の落ちた動物を治療のために麻酔しなければならないケースもあり、細心の注意を払うとともに、詳細な記録をとり、麻酔技術のレベルアップに努めています。